数年前、本屋に「0円ハウス」という写真集が売っていたのを知っていた。なんとなく気になっていたのだが、路上生活者が実際生活している段ボールハウスを写真に撮ったものだろう、なんて悪趣味な、とかなんとか思っていたのだろう。当時は「面白そう」という好奇心はあるにはあったのだが、なんか、家の持ち主に悪いな、なんて勝手に思って読んでいなかった。
で、この前、坂口恭平著「TOKYO 0円ハウス0円生活」という文庫本を見つけた。
「ああ、あの時の作者やな」と思ったが、「0円ハウス、0円生活」というのにやっぱり惹かれた。
買って読んでみて、頭を殴られた感じがした。読み終えた今になっては、昔に僕が心配したことを恥ずかしく思う。
この本に満ち溢れているのは、「路上生活をしなければならない辛さ」ではなくて、「自分の家を持っている豊かさ」である。言い換えれば「自分で判断して自分で選んだ生活の面白さ」を書いてある本なのである。
著者の坂口氏は肩書きを「建築家」「作家」「音楽家」などとしているが、自分でも決められないのだそうだ。
この本は「建築家」としての視点から(ちょっと違うかもしれないけれども)、書かれているようだ。建築家といっても家を設計することではなくて、あるもので構成して、家、快適な空間を作ることを考えている。これは面白い視点である。というか、子供のころ、基地を作るとかいって、誰も知らない場所を作ったことと考え方は同じなのだ。
この本の中で、隅田川沿いに住んでいる鈴木さんという人の生活が紹介される。ゴミを拾ってそれを有効活用することで生活していることや、空き缶拾いなどの仕事、警察や役所または周りの住民とも仲良くしていることも明かされる。人間関係もしっかりしているのだ。僕が会社員時代に出会った他部所の課長なんかよりしっかりしている。印象は、個人営業の商店の社長だ。
この本を読んで確信した。会社に入り、少ない給料をもらって、常識にちょっとでも外れる人を迫害して生きる生き方は間違っている。そうではない生き方が可能なのだ、と。
一億総活躍社会など糞食らえだ。