2019年9月19日木曜日

大工哲弘

涼しくなってきた頃に毎年、このCDを聴いているような気がする。

大工哲弘

沖縄の八重山民謡の第一人者です。アマチュアとして歌を歌ってきた人ですが、CDは一杯出してますねえ。その中でもこの「大工哲弘」は一番いい出来なんじゃないかな。知る人ぞ知るレーベルoff noteから出ている。
ちょうど僕が就職した頃に沖縄民謡をよく聴いていて、その頃にこのCDも買った。
もう、大変なものを買ってしまった、って興奮したね。
沖縄の、というか八重山の民謡を選んで、最小の楽器で構成したもの。賑やかしの島太鼓や笛は録音されていない。すべては静かに、でも心に熱のこもった歌い方。ジャケットの月と海の写真もいい。

同時期、沖縄民謡の人はポップスにも手を出して、どんどん沖縄以外でも売れていった時代だった。ネーネーズはプロデューサーが知名定男。大工と同年代。あと、りんけんバンドは照屋林助の息子、林賢がつくったバンド。BEGINも沖縄出身であることを隠して東京でデビューしてた。誰が見ても沖縄の人やけどね。

このポップス路線とは違う方法で大工も民謡を核にした、クロスオーバー作品を出していた。

「YUNTA & JIRABA」

プロデューサーには梅津和時。ジャズ系、ワールドミュージック系といっていいだろう。やりたくなるのはわかるけど、ちょっと失敗作かな。どの曲もコード音楽的になっていて、コードを拒否する本来の民謡のメロディが全然生かされていない。演歌っぽくなってる曲はまあまあいける。でも、どれも珍しい以外に言うことはないと思う。
あ、最後の曲「与那国しょんかねー」だけはかなり良いです。
でもこのあとに、超最高傑作のアルバムが出ることになる。

「OKINAWA JINTA(ウチナージンタ)」

チンドンの祖先であるジンタが沖縄にも伝わっていて、日本の本土でよく知っている曲が歌詞を変えて歌われていたらしい。それをチンドンスタイルで演奏している。
鉄道唱歌のメロディが1曲めと最後に入っていてどちらも歌詞が違う。「カチューシャの歌」なんか超有名曲やけど、このスタイルのための曲のように感じるほど。「東京節」もチンドンスタイルがぴったり。
政治的な曲もある。「沖縄を返せ」は沖縄返還運動のときに作られ、歌われたらしいが、主体がはっきりせず、当時は日本からも沖縄からも微妙な扱いをうけたらしい。そういう歌を大工はあっけらかんと歌い飛ばす。この人しか歌えないのかもな。「水平歌」が中川敬しか歌えないのとよく似てる。
これも梅津和時のプロデュース。メンバーも、東京のチンドン屋さん長谷川宣伝社、高田宣伝社、たまの石川浩司、クラリネットの大熊亘、チューバに関島岳郎(栗コーダーカルテットの人です)、サックスは中尾勘二、と曲者ぞろい。
ここに落ち着いて正解やったね。同企画のCDがこの後もう1枚出ます。

これが1994年やから、次の年1995年には阪神淡路大震災でソウルフラワーもののけサミット(ソウルフラワーユニオンのチンドン部隊)が被災地での電気を使わないフリーライブを行うのです。その下地はもうあったんやね。
とにかく素晴らしいアルバムです。これも曲者レーベルoff noteから出ています。見つけたら買っとかなあかんよ。

一番初めの「大工哲弘」、これを聴いてるとよく思い出すのが、ポール・ヒリアーの「DISTANT LOVE」というアルバム。

古楽なのですが、12世紀のヨーロッパのトゥルバドール(南仏の吟遊詩人)、Jaufre RudelとMartin Codax(こっちは13世紀)の作品集です。音楽がついてないのもあって朗読されてます。
楽器がローレンス・キングのハープ、プサルテリーのみという、しっとりした内容です。
これも名盤だと思うのですが、あんまり話題にはなってなかったかも。

なんでこれを思い出すのかわからんけど、僕の中では近いところにいるようです。
強引に古楽に持っていった感が半端ないですが、まあそういうことです。

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